通所介護や訪問看護、リハビリテーションを中心に、鹿児島県に複数の施設を展開されている介護事業所「UNITY」さま(以下、ユニティさま)。

ユニティさまは、介護を通して「ご利用者さまの 『やりたいこと』や 『輝けること』に寄り添うこと」を大切にされています。
あるときは、万博に行くために足腰や飲み込みの訓練を重点的に行ったり。またあるときは、お料理がお好きなご利用者さまのために、その方の得意料理を大人数で楽しめる場をつくったり。ご要望に合わせてリハビリや訓練の方針を工夫することで、ご利用者さまが社会の一員であることを実感しながら、自分らしくいきいきと暮らせる介護を実践されています。
ユニティさまが行う取り組みのなかでも特に印象的だったのが「土間の駄菓子屋さん」。


なんと、事業所の一角である土間に、駄菓子屋さんがオープンしているのです。インタビュー当時は絶賛夏休みで、地域の子どもたちで大賑わいなのだそう。
もちろんご利用者さまも、陳列棚の制作や、お菓子の買い出しなど、自分たちの得意分野でお店作りに携わっています。ホームページにあるユニティさまのブログ「Unity magazine」では、楽しそうに開店準備をするご利用者さまと、職員のみなさまの様子を伺うことができます。
そんなユニティさまのロゴや名刺、ホームページの制作を、代表の細尾が担当させていただきました。
今回の記事では、ユニティさまとともにつくり上げたさまざまなデザイン制作の舞台裏や、実際に行ったブランディングデザインがどのように機能しているのか、デザインの「その後」の内容までをお届け。
今回はオンライン上でお話の機会をいただき、たっぷりと語り合っていただきました。
ホームページも“店舗のひとつ”。知人の言葉が後押しに

–––––– デザインを依頼したキッカケを教えてください。
【濵田さん】
一番大きかったのは、事業者である知り合いの言葉でした。
「介護業界の人たちは、ホームページにあまりお金をかけないよね。これからの時代はホームページも“店舗のひとつ”として見られるようになるのに、それでいいの?」と。当時(8年前)、周りではあまり熱心にホームページ制作に取り組んでいるところは少なかったので、その言葉に衝撃を受けたことを覚えています。
その後、細尾さんからもご意見を聞かせていただき、「これはつくるべきだ」と決心しました。
【細尾(デザイナー)】
当初のお声がけは「ホームページをつくりたい」というものでしたが、施設への訪問や、濵田さんとのヒアリングを重ねるにつれ、ユニティさまの持つ課題が徐々に明らかになっていきまして。最終的にはロゴや名刺など、ユニティさまのブランド全体を見据えたご提案をさせていただきました。
–––––– 当初の打ち合わせで印象に残っていることはありますか?
【細尾(デザイナー)】
もう、最初のほうから「大きい名刺」の提案はしていたんでしたっけ。
–––––– 「大きい名刺」?
【濵田さん】
こちらですね。

通常の名刺より、ひと回り…いや、ふた回りは大きい名刺です。職員の名前も、裏面にある顔写真もひときわ大きく印刷されています。当然ですが、市販の名刺入れには入りません。(笑)特注の名刺入れも作りました。少し不便にも見えてしまうかもしれませんが、これは「これからご利用いただく方々」のためのデザインなんです。
【細尾(デザイナー)】
ヒアリングの際、ご高齢の方々は固定電話の近くや冷蔵庫など、確認しやすい場所に貼って保管されるとお伺いしていました。そうした生活の様子を思い描いたときに、「規定のサイズで見やすく工夫するよりも、いっそ大きくしてしまったほうがいいのでは」と考えたんです。実際に見やすいとご好評のようで、思い切って提案して良かったなと思っています。
訪問で気づいた、ユニティさまの持つ「冷静さ」
–––––– 続いて、ロゴ制作についてお伺いします。 リニューアル後のロゴは、以前のものと比べて色の印象が大きく変わっていますが、そこにはどんな意図があるのでしょうか?
【細尾(デザイナー)】
ユニティさまの持つ「暖かさ」と「冷静さ」という二面性を、このビジュアルには落とし込んでいます。

これは、ぼくが実際にユニティさまを訪問させていただいたときのことなのですが。
複数の施設のスタッフの方々が集まって、会議のような話し合いをされている場面を見せていただいたことがありました。
もちろん、どの会社さんでも施設の存続や経営方法について話し合う機会はあると思いますが、ユニティさまの話し合いは少し違っていて。「どうしたらご利用者さまがもっと快適に過ごせるか」や「現場で最近どんな困りごとがあったか」といったことを、丁寧にキャッチアップされていたんです。
しかもそれは、利用者さんだけでなく、スタッフの悩みや課題についてもお話をされていました。立場に関わらずフラットに意見を交わすみなさんの姿に、“賢さ”や“冷静さ”を強く感じたんですね。
ですから、ご提案した新しいロゴには、ユニティのみなさんのお人柄を表す暖色系の色に加えて、信頼感や冷静さも感じられるよう、寒色系の「青」を取り入れました。
また、モチーフもこれまでのような抽象的な丸ではなく、人と人とのつながりを大切にしていることが伝わるよう、「人の顔が向かい合っているビジュアル」へと変更しています。
【濵田さん】
大きな水害に見舞われた際にも、ユニティではすぐにBCP(事業継続計画)を発動し、早期復旧に向けて対応しました。
こうした場面では、何よりも冷静さを持って取り組むことが求められると常々感じていますし、それを自分たちの力で確実に実行してきたという自負もあります。
だからこそ、細尾さんがロゴに“冷静さ”を表現してくれたことが、本当に嬉しかったですね。
ホームページのリニューアルによる、採用への変化は?
【濵田さん】
採用活動は、ホームページによって本当に大きく変わりました。
面接の際に、こちらから聞かなくてもホームページを見てきてくれる方が明らかに増えましたね。
入社を検討している方には、まずホームページを見てもらって、ざっくりとした会社情報やユニティの雰囲気を知っておいてほしいという気持ちがあるんですよ。
自分たちの想いをしっかり反映したホームページをつくったことで、自信を持って「ぜひ見てください」と案内できるようになりました。これは会社としてもすごく心強かったですし、会社の特徴をちゃんと理解してから来てくれる方が増えたことで、「ミスマッチで辞退」というケースもかなり減った印象があります。
特に大きな効果を感じたのは、県外からの応募ですね。地元の方は多少なりとも会社の評判や雰囲気を知っていますが、県外の方にとっては、ホームページが“すべて”です。
そんななかで、「この会社、いいな」と思って連絡をくださる方が増えたのは、とても嬉しい変化でした。
【細尾(デザイナー)】
もともとユニティさまは外への発信に熱心な方で、サイトをリニューアルする前にも、社内の雰囲気を伝えるためにFacebookを活用されていました。
ですが、あれはどちらかというとクローズドな空間なんですよ。外部から様子を見たいと思う人にとっては、少しアクセスしづらい環境だったと思います。
オープンな場にもそういったコンテンツが欲しいと思い、あたらしいホームページには「UNITY MAG.」をつくりました。普段のユニティさまの様子を、ブログ形式で発信いただくものです。
8年経った今でもこまめに更新を続けられていて。今では、ユニティというブランドを形づくる上で、なくてはならないものになっていると感じます。
お客さまの“姿勢”を、さりげなく伝えるデザイン。

–––––– このブランディングを経て、濵田さんに新たに生まれた価値観などはありますか?
【濵田さん】
「伝え方」の重要性を、改めて学びましたね。
募集のチラシひとつにしても、ただ情報を載せれば良いわけではなく、人の目に留まるように工夫を凝らすことが大切で。写真の構図を変えたり、文字の大きさを工夫したりと、「どうすればより伝わりやすくなるのか」を意識するようになりました。
また、「このデザインが良いですよ」という表面的な提案ではなく、こちらの想いをしっかり汲み取ったうえでデザインに落とし込んでいただけたことが、純粋に嬉しかったですね。細尾さんに頼んで良かったなと思いました。
【細尾(デザイナー)】
誰かに企業やサービスの特徴を知っていただくには、言葉で伝えることももちろん大切ですが、姿勢としてさりげなく伝えるほうが、より強い信頼感につながる場合もあります。
この「大きな名刺」も、まさにそうで。文字が見やすく、大きな名刺は「ご高齢の方々に真摯に向き合う企業」であることを、自然に表すものになっていると思います。
そして、そういったさりげない想いや、普段何気なくしている取り組みは、お客さま自身も気づいていないことが多い。私たちブランディングデザイナーの役割は、ヒアリングや見学を通して、芯にある想いや日々の取り組みを見抜き、かたちにすることだと考えています。

インタビューが終わると、濵田さんが思い描く「これからのユニティ」についてのお話に。
実はいま進行中の新しい事業に、再び細尾がデザイナーとして携わらせていただいているのです。
その新しい事業とは、「村のように、人が自然と集まる場所」をつくること。地域に根ざし、子どもから高齢者まで、誰もが安心して集える場の実現を目指しています。どのような場所が生まれるのか、今からとても楽しみですね。
長い年月が経っていたにもかかわらず再びお声をかけていただけたこと、大変うれしく思っております。(…と、ここは細尾に代わって、お伝えさせていただきます。)
介護事業の枠を超えた、ユニティさまの新たな試みを、スピッカート一同、全力で応援しております。
(新しくなったロゴや本社施設のサイン、今から公表させていただくのが楽しみです。)
