SNSのアルゴリズムが変われば、人の流れも売上も簡単に動いてしまうような時代。
イベントの集客やプロモーションも、どれだけタイパがいいか、目を引くか、バズるか、そんなスピード勝負の空気に包まれているように感じます。でも、そんな今だからこそ、じっくり考えたコンセプトが強く響く。そう信じて、僕たちはこれまで仕事をしてきました。

その考えに確かな手応えを感じたのが、先日和歌山で開催された「ファイブスターマルシェ」。和歌山の産直ECサイト「5STAR MARCHE」さんが主催する、はじめてのリアルマルシェイベントです。
スピッカートと檀建築コンサルタントさんで組んでいるユニット「BRICK and CLICK」として、企画・デザインから運営、プロモーションまでを担当させていただきました。

会場は、FuKu HOMEさんが運営する地域交流スペース「かどのいえ」。
普段のイベントでは200人ほどの来場が上限と言われていたこの場所に、600人以上の方が訪れてくださいました。

かどのいえで開催された5STAR MARCHEの様子
かどのいえで開催された5STAR MARCHEの様子(店内)

でも、今回大切だったのは「人数の多さ」そのものではありません。事前に配布したフライヤーや、出店者さんによる自然なSNS投稿。無理に押し出すのではなく、出店者や地域の方が「これは誰かに伝えたい」と思えるかたちを整えたことが、結果的に集客につながったのだと思います。

実際、「5STAR MARCHE」さんのInstagramのフォロワー数も300名以上増加。
「このイベントのフライヤーをあちこちで見て気になっていた」「雰囲気がよくて居心地がよかった」という声を直接来場された方から聞き、伝わり方の大切さをあらためて感じました。

和歌山の“いつつぼし”に、そっと旗を立てる

「5STAR MARCHE」の代表、南村さんとの最初のヒアリングで、確かな想いや行動があるのに、それが伝わるシンボルが定まっていないために、うまく届けられていないのではないか。そんな印象を受けていました。
そこでまず、このイベントのために新しいロゴをデザインすることから始めました。
提案書には、こんな一文を添えています。

まだ見ぬ「おいしさ」の旗を、そっと立てる。

円と四角、素朴なかたちを組み合わせて生まれたこのシンボルマークは、和歌山の食の実り=“素材”をあらわす実のかたち。そこに、小さな旗をひとつ。出会った生産者たちのもとに、そっと目印を立てるような気持ちで添えました。

5STAR MARCHE(ファイブスターマルシェ)ロゴの提案書

ロゴの旗は、あえて中央ではなく、少しだけ左にずらして配置しました。数字の「5」に見えるようにという意図もありましたが、5STAR MARCHEさんの「控えめだけど、真摯に届けたい」という姿勢を、そっと表したものでもあります。

5STAR MARCHEのフライヤー

世の中には、目立つロゴも、かっこいいロゴもたくさんあります。
でもこのロゴは、「見せるもの」ではなく、「示すもの」であってほしいと思ってつくりました。

南村さんが、フライヤーを出店店舗さんに丁寧に届けてくださっていた姿。出店者さんが自然とInstagramで投稿してくれた様子を見て、「あっ、旗が立ちはじめたな」と、じんわり嬉しくなりました。

5 STAR MARCHE 公式Instagramのストーリーズより

そして今回のイベントコンセプトは、「5STAR」にちなみ、5人の生産者さんをフィーチャーするというもの。
“ほんとうは内緒にしておきたい、和歌山のいつつぼし。”をテーマに、それぞれの魅力や物語が伝わるような紹介コンテンツやデザイン表現を行いました。その一点集中の構成が、結果的に出店者さんの熱や共感を呼び、飲食店さんと生産者さんとのイベント限定のコラボ商品開発に多くの出店者さんが名乗りをあげてくれるなど、イベント全体の「空気」をつくってくれたと感じています。

デザインも、ちゃんと芯があると伝わる

また今回、初回ということもあり予算が潤沢にあったわけではありません。
でも、伝えたい思いがしっかりあったからこそ、工夫の余地が自然と見つかりました。

たとえばフライヤー。
緑地にオレンジのロゴ、反対面はオレンジ地。表と裏で色を反転させ、交互に貼ることで二枚で一連のビジュアルがつくれるように設計しました。ポスターをつくる予算がなくても、ちゃんと目に留まる仕掛けを考えることができたと思います。

5STAR MARCHEのフライヤーを並べてポスターの代役

イベントの成功条件は、「出店者が楽しめたかどうか」

運営側としてあらためて強く感じたのは、イベントの満足度って「お客さん」だけじゃなくて、
「出店者さん」が楽しんでくれているかがとても大きいということ。
出店者さんが笑顔で話していたり、自分たちのブースを大切にしていたり、そうした空気感は、自然と来場者にも伝わります。
売上や集客の数字も含め、「また出たい」と思ってもらえるかどうか。これは僕も、檀建築コンサルタントのプロデューサー堺さんも、過去のイベントを主催した経験の中で、共通して感じていたことでした。

イベント終了まもなく、出店者さんから
「次はいつ開催するの?」「次回あればぜひ出たい」という声をいただけたこと。
これが、何より嬉しい評価だったと思っています。

5STAR MARCHEの出店者さん

コンセプトがあると、プロモーションはぶれない

今回のイベントは、「何を届けたいか」がとてもはっきりしていました。
だから、ロゴにも、フライヤーにも、SNSにも、行動にも、一貫した空気感があったと思っています。
おしゃれなデザインにしよう、目立たせよう、というよりも、「ちゃんと伝わるものになっているか」を丁寧に確認していった感覚です。

コンセプトがあったから、判断に迷わなかっただけではなく、それが軸になって発展していった。限られた予算の中でも、必要な手段と優先順位を見極められた。そういう意味で、コンセプトって“コストパフォーマンスを高める軸”にもなると、僕は感じています。

目立たなくていい。
でも、「そこにある」と伝えたい

コンセプトは、熱を伝える旗になる。とあらためて宣言したいです。

目立たなくてもいい。
でも、「そこにある」とわかる旗が立っていると、人は集まってくれる。
「また来たい」と思ってくれる。

僕たちは、これからも、そういう旗をそっと立てるような仕事をしていきたいと思っています。

最後は「ファイブスターマルシェ」運営スタッフのみんなで記念撮影!

「ちゃんとコンセプトからつくってみたい」
「場の熱が伝わるイベントをしたい」
そんな方は、ぜひお気軽にご相談ください。

ご相談はこちらから

空間づくりのこと、会場運営のことはまた別の記事で

実はこのイベント、「BRICK and CLICK」としてのはじめてのプロジェクトでもありました。
出店いただく店舗決めや、動線や配置を組み立てそこにデザインをどう合わせていくか。限られたスペースで、どれだけ人が心地よく過ごせるか。SNSでどんなプロモーションをかけていったかなどなど、そのあたりのプロデュースのお話は、また別の記事でお届けできたらと思っています。どうぞお楽しみに。

Photo by SHIRATAKI Jin