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2022.08.07(sun)
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ロゴの作り方〜創業期のロゴ/ひより保育園篇〜

こんにちは!みなさまお元気ですか?
8月!毎日のように猛暑日!ときにゲリラ豪雨。。。!
湿気と暑さと戦っている、冬が恋しい冬生まれの細尾です。

冬はニット帽がトレードマークで、太ってきたのでクマのような扱いを受けています。

今回はロゴデザインの制作について、私なりにまとめてみました。
弊社の若手デザイナー陣をはじめ、ロゴデザインをはじめたばかりの方の一助になれば嬉しいです。かなり長くなってます。すみません。

ということで早速。

ロゴデザインは、業種、事業規模、用途、地域、そしてタイミングなどによって変わります。同じ企業のロゴでもそのステージによって、求められるものも変化します。
そこで今回は、「ひより保育園」さんの事例で、「創業期」のロゴデザインをお話をします。

まずはご依頼背景を。

ひより保育園さんは、鹿児島県霧島市にある企業主導型の民間保育園です。
ご依頼当初は、まだ軸になるメンバーが数名で、事業の基本計画をもとに具体的な内容を話し合いを重ねている状況で、園舎建設や職員の募集、企業主導型ならではの企業連携などの課題もありました。
それらの計画を牽引し、人を集めるために「ビジュアル化されたもの」=「ロゴ」が必要ではないかとひより保育園の代表はそう考えられたようで、共通の友人を介してご相談をいただいたのがはじまりでした。

まずは、材料を集める

デザインの材料は言葉です。
言葉は具体的なもの、抽象的なもの、場合によっては非言語のものから材料を集めます。
最近はコロナでオンラインで打ち合わせになることもありますが、できれば直接お会いし、可能であればクライアント先を見学させていただきます。
お伺いすることで、会社に飾ってあるものや、服装や持ちもの、会社の雰囲気。資料だけでは絶対に汲み取れないものが溢れています。
これらひとつひとつが材料となるからです。
ひより保育園さんが作成された計画書には、
クラスを縦割り保育で、年齢に応じた自覚や尊敬などの意識を育てたい。
近隣の農家さんと提携して、食の楽しさや大切さ、社会性を育みたい。
などビジョンが明確で、感動したのを覚えています。

業種ならでは、その土地ならではの言葉や慣習も様々。
そのうえで、ひより保育園さんには初回ヒアリングで以下のような質問をしました。
・どういったビジネスモデルか。
 例えば「目標、目的」、「大切にしていること」、「こういう風にはなりたくないこと」は何か?
・クライアントがお持ちの理想のイメージは何か?
 参考にしたいと思っている他社(どこに惹かれているのか)は?
 お客様や周辺の方にどういう会社・店舗に見られたいか。

その他、実際カタチにしていく段階で浮かんだアイデアが使える、使えないの判断がすぐできるように、NG要素や条件も確認しておきます。
・表記はアルファベット?日本語ではどちらが望ましいか?
・アルファベット表記の場合は大文字?小文字?
・看板として使用する場合縦横どちらが良いか?など
NGの要素やクリア条件をしっかり聞いておくこともポイントだと思います。

初回ヒアリングで大枠のイメージと、概要を掴んだら、持ち帰ってさらに言葉を集めます。クライアントさんへのヒアリングをもとに俯瞰で見るイメージで、さらに材料を集めます。

この材料集めは、要するにいろいろな角度で対象物を見てみることです。
材料は集めていて損はありません。デザインする上で重要なのはもちろん、クライアントさんに納得していただけるような「デザインへの裏付け」、「ぶれないプレゼン作り」や、またクライアントからの質問に答えるという点でもとても役立ちます。

頭の中でイメージを絞っていく

材料を集めていると、「これは良いかも」というキラッとしたものがいくつか出てきます。そういうキラッとしたものを手がかりとし、ビジュアルイメージを作りはじめます。
書籍、Pinterest、ベンチマークしているデザイナーさんの事例を参考に、書体、色、角の尖り方や丸み、間の取り方やレイアウトのアイディアになるようなものを探していきます。

ひより保育園さんで選んだキーとなる言葉は以下の5つ。
①人を育てる「教育」
②育てる、触れる、調理する「食育」
③昔からある「郷中教育」をもとにした地域との関わり
④鹿児島
⑤子供を預けるといったネガティブなイメージの払拭
ビジュアル化して考えると
①人のアイコン、ていねいな雰囲気、手描き、アート
②④鹿児島の名産品、芋、トマト、豚
③ありのままの子供らしさが感じられる、無作為
①②④さつま芋+人を感じる手触り感→芋判
⑤やさしさとおしゃれさ、カフェのようなイメージ

この材料探しと連想を、自分がこれだ!というアイデアに至るまで、ひたすら繰り返します。

いよいよデザイン

アイデアが煮詰まってきたら、ラフを描いてデザインしていきます。
必ずラフは手描きで、手を動かすことを心がけています。
以前はコピー用紙に描いていましたが、最近はiPadのconceptというアプリを使用しています。
大きなイメージはおおよそできているので、ラフの段階で細かいバランスを考え、それがだいたい見えたらすぐイラストレーターに移行します。
ラフ描きから清書して提案資料をまとめるまでは、1日〜2日。
アイデア出しの段階でかなりイメージを絞ります。
ときには、つくってみて全然良くない。。。となることもあります。そういうときは潔く材料探しからやり直すようにしてます。

言葉をたくさん集めるのが大切と書きましたが、最終のデザイン段階では言葉に翻弄されて説明のためのデザインにならないようにすることが重要です。
最終の成果物はビジュアル化されたデザインですから、盛り込みすぎてデザインとしての美しさが損なわれると本末転倒になります。

デザインクオリティの1つの基準としているのは、自分がトートバッグなどに印刷して持ちたいかどうか。ほしいと思えるかどうか。
この基準は、自分に嘘をつかないようにすること、自分の感性を信じてくれたお客様を信じるという役割を果たすと考えています。

実際、ひより保育園さんにご提案したものはこちらの2案です。

A案デザインコンセプト
漢字の「人」という文字を「hiyori hoikuen」が下から支え育むイメージのデザインになります。この「人」の文字は「屋根」のようでもあり、人を育てる場所ということも示唆しています。 英文、和文とも子供が一生懸命に書いた文字のようでありながら、カフェのようなカジュアルさのある雰囲気を目指しました。

子供のような、無作為なイメージにしたかったため利き手ではない左手で文字やオブジェクトを描いています。3段に縦組みしたアルファベット表記は、敢えて読みにくくし、じっくり時間をかけて読んでほしいという思いや、1つ「n」をはみだせることで、どんな個性も受け入れるというメッセージなども込めています。

B案デザインコンセプト
ひより保育園さんの特徴をアイコン化し、ぎゅっとまとめた手掘りの「芋判」のようなデザインです。ポンと推すだけで、存在感があり、素朴さ丁寧さが伝わるデザインをめざしました。アイコンは上から、「こどもたちと動物」「世界地図」「霧島の特産品(里芋、お酒、トマト、スイカ)」「本(知識、ことば)」、「支える地域(家、会社、工場)」を表しています。

ひより保育園の活動そのものが小さな社会であり、食や地域、他年齢とのかかわりを通して、生きる力を育み、人を育む場として在りたいという理念を込めています。

実際のプレゼンではロゴを展開したモックアップイメージも一緒につけます。

ひより保育園さんのご提案ではサーモンピンクをベースカラーとして設定しています。園舎がない状態と前述しましたが、実は園舎を他社から引き継ぎ、建築をしなければいけないという条件がありました。その建物の外壁の色がサーモンピンクでした。

当初、ピンクは「可愛らしすぎる雰囲気」とネガティブな印象を持たれていたのですが、さすがに外壁は隠すことができないので、敢えてこのピンクを活かした提案をしました。
ベースは既存のサーモンピンクを使用し、ロゴは黒い黒板のようなチャコールグレーで全体を引き締める役割とし、懸念されていた「可愛らしすぎる雰囲気」になりすぎず、「人感のあるやさしい色」という印象へ転換させています。
マイナスに思える条件を活かすと、デザインは深くなるのだと感じた事例でした。

プレゼンの結果、A案を採用いただきました。

ロゴができたことで、職員募集や企業との提携もスムーズにすすみ、大変喜んでいただけ、無事に「旗印」としての使命を果たすことができたことにほっとしました。

ひより保育園さまのロゴ事例はこちら
ひより保育園さまのWebサイトの事例はこちら

ロゴは企業によって目指すものが変わると、冒頭に書きましたが、創業期かつ規模が大きくない会社では、企業=代表という部分が大きいため、企業理念に基づいたカタチであること以上に、代表や中心メンバーのみなさまが気に入って自慢したくなる方が、ロゴとしての機能を果たすのではないかと考えています。

タイポグラフィ年鑑2018にも入選し、ひより保育園さんの食育をまとめたレシピ本「小学校にあがるまでに身に付けたいお料理の基本」がグッドデザイン賞2020で金賞をいただくなど、ひとつのターニングポイントとなったお仕事だったと感じています。
代表のふるかわりささんや当時園長の白水さんはじめ、関わられたみなさま、ご紹介いただいた辻本珈琲の辻本さんには感謝しかありません。
本当にありがとうございます。