会社を継いだ方から、こんなご相談をいただくことがあります。
「ロゴやWebサイトを一新したい。でも、これって先代がつくってきたものを否定することにならないだろうか」と。
地域で愛され、長く取引してくださるお客さまがいる。
社員は先代を心から慕っている。
そのすべてが、その会社を、その会社たらしめているものです。
けれど同時に、継いだ人の目には、別の現実も見えている。
これまでのやり方が、これからもそのまま通用するとは限らない。
会社の中にある大切なものを守りながら、伝え方や見せ方は変えていかなければならない。
変えたい、でも、どう変えていいかわからない。
そう思っている方も多いのではないでしょうか。
私たちが、企業のブランディングやデザインに携わる中で感じていること。
それは、会社の見せ方を変えることは、過去を否定することではないということです。
先代が積み上げてきたもの、まさに「会社の魂」と呼べるようなものは、そのままでいい。
変えるのは、その伝え方。
継ぐというのは、先代のやり方をそのまま守ることではなく、先代の想いを、今の時代の言葉やデザインに訳し直していくこと。そしてそれは、会社の歴史とこれからの両方を知る、継いだ人だからこそできることなのだと思います。
なぜ、事業承継のタイミングに「デザイン」なのか。
事業承継には、さまざまな難しさがあります。
先代の影響が強くて、自由に判断しづらい。社内外から「まだ実権は先代が」と見られてしまう。長く働くベテランほど、これまでのやり方に慣れていて、新しい考えが浸透しにくい。
だからこそ私は、承継のタイミングこそ、会社のこれからを考える機会になると思っています。
ロゴやWebサイトは、会社がこれからどこへ向かうのかを、目に見えるカタチにしたもの。言うなれば、新しい旗です。その旗を、「これが自分たちの目指すものだ」と思えること。デザインには、そんな役割もあるのだと思います。
私たちspicatoの役割は、まだ言葉になっていない会社の想いや姿勢、価値観、そして文化を、対話を重ねながらいっしょに見つけ出し、いちばん伝わるカタチに訳し直すことです。
先代が背中で示してきたこと。
職人が当たり前にやっていること。
社員がなんとなく感じている誇り。
そうしたものを対話の中からていねいに掘り起こし、輪郭を与えていく。
すでに言葉になっている想いであれば、次の時代に伝わるカタチへ磨き直していく。
その人や会社が持つ空気、表層に出ていないところを感じ取って「らしさ」を表現するために。隣で見て、経過も把握し、課題や目指したいことにしっかりと向き合う。そんな関わり方を大切にしています。
今回は、私が実際に担当した4社の事例を通して、それらがどんなふうに起きたのかをお話ししたいと思います。
側島製罐さま|理念を汲み取り、表現する。

まずは、いま各方面から注目を集めている愛知の缶メーカー、側島製罐さま。創業はなんと1906年。120年の歴史を持つ老舗です。現代表の石川貴也さんは6代目。後継ぎがいないという家業の現実と向き合い、2020年に入社、2023年4月に代表に就任されました。
会社のこれからを見つめ直す中で、石川さんがまず取り組まれたのは、社員全員で理念(ミッション・ビジョン・バリュー)をつくることでした。ミッション「世界にcanを」、ビジョン「宝物を託される人になろう」。缶を「宝物を託される器」と捉え直したこの発想が話題を呼び、側島製罐さまは、受け継いできた缶づくりを見つめ直しながら、自分たちのこれからを考える変化の時期を迎えていました。
そうした変化が進む中で、spicatoはコーポレートサイトのリニューアルを担当しました。リニューアルされたロゴのグラデーションを活かし、新たに掲げられたミッションのもとで変化していく側島製罐さまの姿を表現したデザインへ。「側島製罐といっしょに仕事をしたい」と少しでも多くの方に感じていただけるよう、抽象的なモチーフではなく、実際に働く社員の皆さんと缶そのものの美しさを伝える。写真とのバランスに、何度もこだわりました。また、新しく掲げられた想いや、会社の目指す方向を社内外にしっかりと伝えられるページも新設し、これまでの歴史と、これから目指す未来の両方が伝わるカタチへと整えました。
そして2026年、創業120周年。
記念ロゴと周年サイトの制作を担当させていただきました。120周年を迎えるにあたり、側島製罐さまでは、缶づくり体験やマルシェで工場を地域にひらき、周年仕様の配送トラックを町に走らせるなど、地域に向けた企画が行われました。Webサイトでは120年の歴史を、社会の出来事と重ねてたどる社史コンテンツや社員インタビュー、地元・大治町での工場開放イベント情報などを紹介しています。テーマとして掲げられていた「Open the can!」という言葉には、缶のふたと、会社と地域の未来をひらく、という側島製罐さまの想いが込められています。spicatoは、その周年の想いを伝える記念ロゴと、取り組みを伝える周年サイトを制作しました。ロゴは、過去に使用されていたロゴフォントのレトロさと、現代のスタイリッシュさを掛け合わせたデザインに。これまでの想いを受け継ぎながら、未来へひらいていく側島製罐さまの姿勢を表現しています。
デザインは、言語化からはじまる。
Webサイトのリニューアル後は、アクセス数やお問い合わせ数も大きく伸び、社員数も増えたと伺っています。
先代から受け継いだものを、これからどうつないでいくのか。
そのためにはまず、会社が大切にしてきたものと、これから目指すものを言葉にすることが必要です。
言葉になれば、会社の中で共有できる。
共有できれば、これからの判断の軸になる。
デザインは、その言葉を目に見えるカタチにするところから始まります。
事例:側島製罐|コーポレートサイト
事例:側島製罐|120周年記念ロゴ・周年サイト
ナカニさま|注染を次の代へ残すために、会社のあり方を変える。

続いて、大阪・堺で注染の手ぬぐいを企画・製造されている株式会社ナカニさま。「にじゆら」というブランドで広く知られています。1966年創業、2026年に染工場として創業60周年を迎えられます。
二代目の中尾雄二さんが家業に入られた当時、注染業界では分業・下請けが一般的でした。そんな中、「このままで注染は、次の代に続いていくのか」という想いから、自社ブランド「にじゆら」を立ち上げます。
注染を次の世代へつなぐために、職人が自分の仕事に誇りを持てる仕組みをつくり、会社のあり方そのものを変えてきたナカニさま。
そんな歩みを持つナカニさまからご相談いただいたのが、コーポレートサイトのリニューアルでした。
はじまりは、「にじゆら」というブランドが有名になるほど、その奥にある「ナカニ」という会社自体が見えづらくなっている、という課題でした。
注染だけでなく、スクリーンプリントやロール捺染まで手がけるオーダーメイドの幅広さも、もっと知ってほしい。その想いを受けて私たちは、特定の技法やモチーフに寄せた表現ではなく、ナカニさまの「工場そのものが持つ魅力」を主役にすることにしました。 いろんな音が響き、染料や布が所狭しと並び、そこにいるだけでワクワクするような空間。その空気感を伝えるため、デザインは白を基調に、写真の良さを引き立てるシンプルな設計に。ブランド「にじゆら」の華やかさとはまた別の、それを支える「会社としての誇り」を伝えるWebサイトになりました。
受け継ぐとは、すべてを残すことではない。
リニューアル後、中尾さんからは「Webサイトからのお問い合わせも増え、良い仕事につながっている」とのお声をいただいています。
ナカニさまの歩みから見えてきたのは、受け継ぐことは、昔からのやり方をすべてそのまま残すことではない、ということです。
注染を次の世代へつなぐために、何を残し、何を変えるのか。
その選択の積み重ねが、次の時代の会社の姿をつくっていくのだと思います。
事例:ナカニ|コーポレートサイト
吉松工機さま|町工場の「かっこよさ」を、デザインにする。

三社目は、和歌山で長尺大径・精密ロールを手がける株式会社吉松工機さま。先代が貸工場から始めて約50年、二代目が受け継ぐ、小さくても技の詰まった強い会社です。
最初のご相談は、実は「採用のために動画をつくりたい」というものでした。けれどお話を重ねるうちに、伝えるべき魅力の核はもっと深いところにあると感じ、「ロゴとWebサイト、動画で世界観そのものを立ち上げましょう」というご提案に変わっていきました。
工場に何度も足を運ぶたび、私たちが心を動かされたのは、職人さんの姿でした。明るすぎず暗すぎない工場に響く機械の音。ロールに向き合う真剣な表情。性能はもちろん、見た目の美しさにまでこだわる、その誇り。町工場ならではの、質実な佇まい。その質感を生かしながら現代的な表現を掛け合わせ、力強いデザインにまとめました。ロゴは、職人のこだわりの証として、完成したロールに打ち込む刻印をモチーフにしています。古くから受け継がれてきた技術と、新しい発想を重ねながら、次の世代へ残そうと若手教育にも力を入れるその姿勢を、デザインとして表現しました。
会社の魅力は、いつも言葉になっているとは限らない。
出来上がったロゴやWebサイトを見た方たちから、「カッコイイ!」という声をよくいただくそうです。新規取引のお問い合わせも、コンスタントにWebサイトから届いているとのこと。その先につながっていくたしかな手応えを感じてくださっています。
会社が抱える課題の下に、自分たちの魅力をまだ言葉にできていない、という課題が隠れていることがあります。
長年続けてきた仕事。
職人にとっては当たり前の技術。
毎日繰り返している仕事へのこだわり。
外から見ると、それらは大きな魅力に見えるのに、当事者にとっては「当たり前」になっている。だからこそ、外から見つめ直し、言葉にすることに意味があります。
事例:吉松工機|ロゴデザイン・Webサイト
昭和工業さま|インフラを支える誇りを、選ばれるブランドへ

最後は、福岡で浄水場や燃料タンクなど、社会インフラの清掃・保守を手がける株式会社昭和工業さま。1954年の創業以来、蛇口をひねればきれいな水が使え、レバーを引けば水が流れる。そんな「当たり前の日常」を、陰で支え続けてきた会社です。
清掃業務の縮小という時代の変化のなかで、燃料タンクや危険物施設、プラントサービスへと事業を広げてこられました。ご相談をくださったのは、次の時代の会社を担っていく方。「これまでの在り方を見直すだけでなく、新たな価値を自らつくり、お客さまや社会から選ばれる企業へと生まれ変わりたい」という想いで、ブランドイメージの一新を決断されました。
spicatoは、まず理念(ミッション・ビジョン・バリュー)を言語化するところからお手伝いしました。何度も対話を重ねる中で、会社がこれまで大切にしてきたことと、これから目指す方向を整理していきました。その中で見えてきたのが、「水や燃料を、生活へきれいに循環させる」という使命。そこからロゴ、Webサイト、パンフレットや名刺といった日々の営業ツールまで、トータルで携わらせていただきました。
地域の日常を支える会社としての誇りが伝わる設計へ。
インフラという、ふだんは目立たないけれど社会になくてはならない仕事の価値を、まっすぐに可視化することを目指しました。名刺やパンフレットまで一貫して整えたのは、ブランドがいちばん試されるのが、お客さまと向き合う日々の接点だから。こうして整えたブランドは、社内外に少しずついい影響を与えていると伺っています。
見えにくい価値ほど、可視化する意味がある。
このプロジェクトは、今もロゴ、理念、Webサイト、グラフィックツールを軸に、少しずつカタチになっている最中です。昭和工業さまが大切にしてきたことを、言葉とデザインの力で整えていく。その途中に、私たちも関わらせていただいています。
社会インフラを支える仕事は、問題なく機能している限り、その存在を意識されることは多くありません。けれど、目立たないことと、価値がないことは違います。
日々の当たり前を支える仕事。
長年積み重ねてきた技術。
社会に必要とされ続けてきた信頼。
それらは、すでに会社の中にある価値です。
だからこそ、その価値を言葉やデザインで見えるカタチにすることには意味があります。
事例:昭和工業|コーポレートサイト
事例:昭和工業|企業パンフレット・名刺
事業承継で受け継いだものを、次の時代へつなぐために。
業種も地域も規模もバラバラの4社。
けれど、そこにはひとつの共通点がありました。
それは、受け継いだものを、次の時代へつなぐ方法はひとつではないということです。
受け継いだものを、そのまま残す会社もある。
あり方を変えながら、残していく会社もある。
言葉やデザインにして、伝えていく会社もある。
未来へつなぐ方法は、会社によってさまざまです。
そして、継いだ方には、継いだ方にしか持てないものがあります。歴史であり、信頼であり、これまでの物語です。それを重荷だと感じることもあるかもしれません。でも同時に、これからの会社をつくるための、かけがえのない土台にもなり得るのではないでしょうか。
まだ言葉になっていない本質を、対話でていねいに読み解き、次の時代に伝わるカタチへ訳し直すこと。
それが私たちspicatoの役割であり、いちばん大切にしていることです。
守るために、伝え方を変える。
デザインを一新したい。
でも先代の否定になるのが怖い。
もしそう感じているなら、それはきっと、先代の想いを本気で大切にしているからだと思います。
守るものと変えるものは、両立できる。
私たちは、そう考えています。
むしろ、しっかり守るためにこそ、伝え方を変える必要があるのです。
spicatoでは、いきなりロゴやWebサイトの話から始めません。
あなたの会社が何を大切にしてきて、これからどう在りたいのか。
それを、対話から見つけていくところから始めます。
継ぐことに迷いや違和感を抱えている方こそ、その迷いも含めて、一度お話を聞かせてください。
あなたの会社の中に、まだ言葉になっていないものが、きっとあります。
それをいっしょに見つけにいきましょう。

